桃色ドクター
くっついた私と瀬名先生の体は、お互いの意思で離れようとはしなかった。
手が触れた。
瀬名先生のコートのポケット。
私の手は、瀬名先生の右手によって、コートのポケットの中へ入れられた。
温かいポケットの中で、ひんやりした瀬名先生の手が私の手を握った。
時間にすれば、1分もなかったかも知れない。
駅前の人通りの多い場所に着くまでの間、私と瀬名先生は手を繋いでいた。
瀬名先生、ばいばい。
大好きだけど、やっぱりあなたをこれ以上好きになることが怖い。
婚約者のいる人を愛すなんて。
本当は、彼女からあなたを奪いたいけど、そんな勇気もないから。
だから、この激しい胸の高鳴りを胸の奥にしまって、一生の思い出にする。