桃色ドクター



涙に気付いた瀬名先生は急に車を止めた。



薄暗い路地。

消えかけた街灯。




「俺は、君を温める手になりたい」




こんな口説き文句、きっと一生言ってもらえない。




忘れない。

これっきりになったとしても、後悔はない。


こんな素敵な男性に、そんなセリフを言われたなんて。




私は精一杯の笑顔を瀬名先生に向けた。




「ありがとう。一生忘れない」




もう一度抱きしめられた後、私は瀬名先生の胸を押し返した。




「嬉しいけど、やっぱり無理です」



力強い瀬名先生の腕の力が緩んだ。




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