アンダンテ
「ちとせー。数学教えてー」
コンコンとドアをノックして、千歳の部屋に入る。部屋には胡座をかいた三月さんと寝転がった千歳がいて。
千歳はあたしが入るやいなや寝転がっていた体を勢いよく起こし、顔をこちらへ向けた。
「…千尋か!ご飯できたのか?」家政婦か。
「…いやあたし数学教えてもらいに来たんですけど…ネ…」
あたしが答えたのが聞こえてないのか、『ハンバーグか?!…ミートか?!…ソースか?!』なんて訳わかんないことを連発する兄、千歳。仮にもあんた20だよ…。
うちの兄はどうしてこうなんだろう…。ごめん、数学なんか教えてもらおうと思ってたあたしが間違ってた。
なんかあたしって哀れ。しゅんと肩を落とすと『…ぷ』と誰かかの笑い声が漏れた。漏れた。確かに漏れた。
…あれ、今誰か笑った…?