粛清者-新撰組暗殺録-
「さあ早く屯所に戻って食事にしましょう」

そう言って総司が石井屋の前を通りかかったその時。

「!」

彼は店の裏口から通りへと出てきた、十九か二十歳くらいの娘と鉢合わせした。

長く伸びた黒髪を髷も結わずに後ろで纏めて括り、身につけているのは青い袴と同じ色の羽織。

赤い帯を前に垂らしている。

およそ年頃の娘の格好ではない。

艶やかな着物など着る事なく、まるで剣客のようだ。

この娘が噂に上がった秩だというのは、総司にもすぐわかった。

…秩は冷ややかな眼で総司の顔を一瞥した後、彼が身に纏う浅葱色に段だら模様の羽織を見る。

「…貴方、新撰組ね?」

「はい、新撰組一番隊組長・沖田総司といいます」

笑顔で答える総司。

「…!」

秩は奥歯を噛み締め、彼をキッと睨んだ。

「貴方が沖田…大嫌い…っ…きっとこの手で斬ってやるわ…っ」

< 16 / 134 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop