粛清者－新撰組暗殺録－

序章

明治十五年、東京府警視庁。

その一室にある大きな窓のそばの事務机に腰をかけ、咥え煙草の煙を燻らせながら、藤田五郎はじっと外の景色を眺めていた。

考え事をする時、彼はいつもこの席に腰掛け、煙草を燻らせながら窓の外の空を見上げる。

警部補である彼の立場上、こんなにゆっくりと椅子に腰掛ける機会は滅多にない。

普段は不逞士族の取り締まりだ、政府に不満を持つ者達の暴動鎮圧だと、東京中を駆け回る毎日。

そんな中、ぽっかりと空白の時間ができる事がある。

そんな時、藤田は必ずこうして椅子に腰掛けて窓の外を眺めるようにしていた。

こうしていれば帯刀したサーベルを抜く事もないし、仕込み杖を携行しているような輩との緊迫したやり取りの事も考えなくて済む。

藤田にとって、職場でのこの時間は家庭の次に安心できる休息の一時であるのだ。