粛清者-新撰組暗殺録-
何を考えているだの、正気じゃないだのという近藤や土方の説得も振り切って、総司は秩を連れて屯所近くの河原へと出た。

「ここなら誰も邪魔はしない。思う存分仇討ちをする事ができる」

「…言われなくてもやるわよ」

秩は白鞘の刀を帯びて、スラリと抜刀した。

その刀身の輝きは見事なもので、日頃己や相手の刀を見慣れている総司ですらも心奪われるほどのものであった。

この秩の持つ刀は『三池典太光世(みいけでんたみつよ)』という九州筑後の刀鍛冶が平安後期に鍛えたもので、かつては剣豪・柳生十兵衛の愛刀であったとも伝えられる銘刀である。

刀の価値もわからぬ似非志士が、悪巧みする為の金を得る為に石井屋に質入れしたのだ。

「典太は泣いてたわ。刀の美しさも価値もわからぬ馬鹿に質入れされるくらいなら、その身を穢してでも『刀』として生きていたいってね…!」

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