粛清者-新撰組暗殺録-
涙ながらに訴える秩の言葉に、総司は静かに返す。

「秩さん…それは大和屋の事を言っているんですか?」

「……」

彼女は涙を拭い、総司をキッと睨んだ。

「大和屋庄兵衛は、私の祖父にあたる人よ…とても優しいおじい様だったのに…隊費を払わないなんて無理難題を押し付けられて、断った腹癒せに…!」

…それでやっと謎が解けた。

新撰組は確かに秩が言うように人斬りの集団だ。

これまでも大勢の人間を血刀の下に斬り伏せている。

が、罪もない者は勿論の事、市井の人々を斬った試しはない。

ましてや新撰組の隊費を無関係の人間に借用して、それを拒絶された腹癒せに砲撃するような理不尽な真似は、局長である近藤や副長の土方が許す筈がない。

そんな横暴な真似が許されるのは、近藤と同じ権限を持つもう一人の新撰組局長…。

「秩さん…新撰組隊士としておじい様の事はお悔やみ申し上げますし、お詫び申し上げます…ただ、貴女のおじい様に無念の死を遂げさせたのは僕じゃない…それだけは誓って言える」

秩は泣き濡れた顔で総司を見た。

彼女はその時どう思っただろう。

怒りと怨念で我を忘れかけ、人斬り鬼を心に棲まわせつつあった総司の顔を見て…。

総司は刀を納め、秩に背を向けた。

「秩さん…貴女のおじい様の仇討ち…僕に預けて下さい」


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