粛清者-新撰組暗殺録-
総司は土方に背を向けて屯所の廊下を歩いていく。

…しかしその時には既に、総司の顔から笑みは消えていた。

斎藤が、そんな総司と廊下ですれ違う。

「……」

突き当たりで土方と鉢合わせ、斎藤は静かに言った。

「駄目ですね…沖田君は随分と秩とかいう娘に熱を上げているようです」

「そうか…」

土方は懐に手を入れたまま、もう片方の手で顎を撫でた。

「まずいな…好いた惚れたは総司の勝手なんだが…新撰組の性質上、女にいつまでも現を抜かす事は剣の腕を鈍らせる事に繋がる…程々に目を覚まさせてやらんとな…」

…斎藤は無表情に土方の言葉を聞いていた。

「そういう訳で斎藤、すまんがお前にはもう少し総司の身辺を探ってもらう事になるかもしれん…すまんな、こんな裏仕事ばかり頼んでしまって」

「構いませんよ、俺には日の光の下での目立つ仕事より、こういう闇に潜んでの裏仕事の方が向いています。それに…」

斎藤はニッと笑った。

「新撰組自体、歴史の表に立つ事のない暗殺稼業の集団じゃないですか」

「成程…違いない」

斎藤の言葉に土方もつられて笑った。

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