粛清者-新撰組暗殺録-
「い…嫌だな…勘弁して下さいよ斎藤組長。私は出掛けるだけですよ」

「こんな夜更けにか?幾ら門限がないとはいえ、もう丑三つ刻が近い。こんな時間に出掛けて、どこの飲み屋がやっているっていうんだ?遊郭の女だって客の男と寝静まる時間だぜ」

「……」

御倉の口が閉ざされた。

反論の余地がなくなったようだ。

「御倉伊勢武」

斎藤は遂に先程まで浮かべていた薄笑みを消し去り、剣気を込めた『眼(がん)』で御倉を睨んだ。

「昼間の三番隊(うち)の隊士達の調べで、貴様が長州藩・桂小五郎の間者だという事は知れている。まだ結成されて日が浅い新撰組の強さに逸早く着目した桂の眼力と、新撰組に潜入しようっていう貴様の度胸は認めんでもないがな…」

斎藤は刀を抜き、それを左手に握って刺突の構えを取った。

右手は掌を大きく広げ、前方に突き出す。

左片手一本刺突の構えである。

「貴様の『死因』は俺に感づかれたのに気づかなかった事だ」

「うっ…くっ…!」

御倉は恐怖のあまり、斎藤に背を向けて逃げ出した。

全速力で走る!

しかし。

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