粛清者-新撰組暗殺録-
「腕にはかなりの自信があるようだが…どこの流儀だ?」

その面構えから、斎藤の力量を瞬時に悟ったのだろうか。

土方が興味津々で尋ねる。

が。

「上にも下にも何もつかない、只の一刀流ですよ」

斎藤はそう言って微かに笑みを浮かべた。

彼のどこか謎めいた飄々とした性格は、これ以後生涯変わる事なく続いた。

ちなみに彼はこの場ではこんな風にはぐらかしているが、史実によると斎藤一は『示現流』という流派である事が明らかになっている。

彼がどれ程の強さであるのか…それはまた後程語る事にしよう。

…さて、只でさえ人数の多い新撰組の中で、局長達の目に止まった斎藤。

彼は土方歳三直々の案内で、新撰組壬生屯所内を廻っていた。

その途中、練武場で…。

「ほぅ…」

斎藤は、たった一人で巻藁に刺突を繰り返し打ち込む青年を見つけた。

「ああ…あいつか」

青年の様子を興味深げに見つめる斎藤に気づいた土方が、薄笑みを浮かべて言う。

「あいつ今日は非番なものだから、朝稽古からずっとああやって刺突の稽古を続けてやがる。剣術馬鹿もいいところだぜ…」

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