粛清者-新撰組暗殺録-
「狼の牙から逃げられると思ったか…阿呆が」

鋭い切っ先が、次々と志士達を貫く!

斎藤の左片手一本刺突だった。

彼は容赦なく、志士であれば逃げる者さえも刺殺していった。

そして、人斬り鬼はここにも…。

「ぐぼぉあっ!」

「がふぅっ!」

斬りかかっていった男達が、瞬く間に三つの致命的な刺し傷を負って倒れていく。

総司の三段突きの前に、最早敵は皆無だった。

…池田屋事件以降、総司が喀血して昏倒するような事はなくなった。

だが、彼の体には確かに『影』が巣食っている。

労咳。

現代でいう肺結核である。

今でこそ肺結核は早期の治療で治す事のできる病気だが、幕末当時は極めて致死率の高い不治の病として恐れられていた。

稀代の天才剣士とてそれは例外ではなかったが、総司はそんな事は一言も言わず、ただ黙々と新撰組一番隊組長として刀を振るっていた。

…勿論、気づかぬ永倉や斎藤ではないが、彼らも何も言わなかった。

新撰組に身命を捧げる総司に、彼らも己の人生を賭けたのである…。

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