粛清者-新撰組暗殺録-
この当時、新撰組にあった実働部隊は実質十番まで。

中でも局長、副長と、一、二、三番の組長は文句無しに強かったという。

だが、まだこの時点では新撰組の名前は歴史の表舞台には登場しない。

彼らが動乱の京都に躍り出る事になるのは、もう少し後になってからの事である。

何故ならこの時点では、まだ新撰組自体の結束もおよそ固まっていないに等しかったからである。

…新撰組が結成されてから間もない、文久三年四月八日の事…。

その日は何やら近藤と土方がそわそわと慌しく動いていた。

いつものように朝稽古を済ませて朝食をとりに来た斎藤は、その様子を不思議に思いながら見ていた。

と…。

「何だか近藤さん、密偵を放っているみたいですよ」

背後で声がした。

少し驚いて振り向く斎藤。

そこには、朝稽古の汗を手拭いで拭きながら立っている、笑顔の総司の姿があった。

(俺の背後を感づかれずにとるか…)

腕に覚えのあった斎藤だが、その時は少なからずこの微笑の青年に戦慄を覚えたものである。

が、その事は悟らせずに斎藤は総司に尋ねた。

「密偵?何の為に?」

「何でも芹沢さんや近藤さんに反目して、何人かの隊士と共に脱退しようとしている人がいるとか…そんなの局中法度に駄目だって書いてあるじゃないですか、ねえ?」

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