粛清者-新撰組暗殺録-
かくして元治二年二月二十三日、山南敬助は壬生屯所に連れ戻され、坊城通りに面した一室にて切腹。

三十三年の短い人生に幕を閉じた。

介錯は山南の希望通り、総司が務めたという。





「これが…その時の山南さんの脇差です」

後日、総司は明里に会って、山南が切腹した時に使用した脇差を彼女に渡した。

「……っ!」

明里は声を殺して泣いた。

泣きながら脇差を受け取り、その脇差を抜いて…。

「人殺し!」

彼女は総司の左胸を斬りつけた。

が、女のか細い腕では人が斬れる筈もなく、総司の羽織に血が滲むだけだった。

それでも、総司は剣客になって最も痛い刀傷を刻まれていた。

…最も慕っていた人間の命をこの手で奪った事、そしてその人間が最も愛していた女性に、殺めた手で遺品を渡す事…。

見ず知らずの人間を何百人斬る以上に、総司にとってはつらく苦しい事だった。

…明里に会った帰り道、総司は思った。

新撰組とは一体何なのだろう。

不逞の輩や似非志士が闊歩し、血風の魔都と化した京洛の治安を守る為に結成された、会津藩お抱えの京都守護職の一隊。

それが任務ならば、何故自分は慕っている人間をこの手で殺めなければならないのだろう…。

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