この世界で君を愛す
気付くと 私は廊下の長椅子に寝かされていた。

正木君の膝に頭を乗せて寝ていたらしい。

上を見上げると 正木君と目が合った。


「未知さん…。大丈夫…ですか…?」


正木君の泣き腫らした赤い目を見て 夢じゃないんだと思い知らされる。


私は小さくお礼を言うと ゆっくりと体を起こした。

目の前のドアから 半狂乱で泣き叫ぶ声と 怒鳴るように渉の名前を呼ぶ声が聞こえた。

渉の両親だ。



信じたくない…。

信じたくないのに…。これは真実なんだと 回りの人達の声が知らせてくる。


病院の無機質な白い壁や天井が とてつもない圧迫感を与えてくる。


私は苦しくて…悲しくて…。


どうすればいいのかわからなくて…。


わかるはずもなくて…。


ただ…。


渉の名前を呼び続けながら…泣くしかなかった。





渉…。


渉…。


渉………!



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