この世界で君を愛す
アパートの階段を降りながら正木はニヤニヤして言った。


「上田さん…そのマフラー似合ってますよ。」


「…なんとでも言ってくれ。この間未知が買ってきたんだよ。よりにもよって…ハート柄をさ。」


「なんで女って 犬に服を着せたがるんでしょうね?」


「それは謎だよ。男の僕達にはわからないさ。」


溜め息をついた僕を見上げてチョコが「ワン!」と吠えた。


それが僕には「全くだ」と言ってるように聞こえたのだった。




「それにしても…。」

正木が口を開いた。

「それにしても… 未知さんどうかしたんですか?あの殺気はただ事じゃないですよ。俺…殺されるかと思いましたもん。」


「いや…未知の仕事がさ。今月末まで仕上げなきゃならないらしくて。それでたまにピリピリしてるんだ。」


「あぁ…なるほど。」


「昨日もさ。僕がステレオで音楽を聴いてたら未知がいつの間にか後ろに立っていて…。」


正木がゴクリと喉を鳴らした。


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