この世界で君を愛す
車の中で 僕達はどうにもならない胸の痛みに耐えるのに精一杯だった。


対向車のライトが時々未知の顔を照らし まつげについた涙を光らせた。




こうなることを僕は覚悟していた。


でも未知は…。


考えてもいなかった両親の言葉に 打ちのめされたに違いない。


しかし…結婚式をするならば未知の両親にも認めてもらう必要があった。


未知にとって孤独な結婚式にはしたくなかったから。


未知の辛さを思うと 僕の胸は息もできない程に締め付けられるのだった。




「渉…。嫌な思いをさせてごめんね。」


そう言うと 未知は伏せたまつげから涙をポロリと落とした。



自分が辛いのに僕を気遣っている未知が 本当に切なくて…。


僕の視界もぼやけてしまいそうだった。




僕は未知のひんやりした手を握った。


未知は僕の手を握り返すとポツリと言った。


「あったかい…。こんなに…あったかいのにね。」




僕は何も言えずに…ただ未知の手を握りしめていた。




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