この世界で君を愛す
どの位こうしていただろう。

渉の胸に顔を押し当てたまま…渉がまた消えてしまわないように 背中に回した腕にギュッと力を込めていた。



渉の匂い…体温…私の髪にかかる静かな息遣いも…。

全てが愛おしく思った。



「未知…?」

優しく低い声が耳元で聞こえた。

一年前は当たり前だった事が 今はこんなにも…。


顔を上げると 渉は両手で私の頬を包み まぶたにキスをした。


「しょっぱい」


そしてもう片方のまぶたにもくちびるをつけて笑った。


「やっぱり しょっぱい。塩分とりすぎなんじゃない?」


「な…なによ もう!だっ誰のせいで…誰のせいで泣いてると思ってるの!渉が…渉が…わっ渉のせい…で…」


私はこれ以上言葉を続けられなかった。


渉のくちびるが 私の口をそっと塞いだからだった。


キスをする私達に 桜の花びらは優しく舞い降りていた。




< 33 / 310 >

この作品をシェア

pagetop