この世界で君を愛す
どうやって辿りついたのかは覚えていない。



病院の狭いベッドに…渉が横たわっていた。



そのすぐ横では正木君が泣いていて…。



私はそっと渉に近寄った。


渉は目を閉じていて…今朝キスをして起こした時と 何も違わなかった。


だから私はその時と同じように 優しく呼びかけた。


「…渉…。起きてよ。渉…?」



渉は何も答えない。



今度は軽く揺すってみた。


「お願い…目を覚ましてよ」



渉の腕が ベッドからダラリと滑り落ちた。


「わ…たる…?い…いやだ…嫌ぁぁ!」



遠くなる意識の中で 正木君が泣きながら私を支えているのがわかった。



…渉。


…渉…。


…嫌だよ。


こんなの…嫌だよ。


ねぇ…渉…。




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