短編集。
***
次の日の朝、早朝。天気は曇り、予報ではまたすぐ雨が降るらしい。
「アンタ、昨日どこ行ってたの?」
と、母が尋ねてきた。
「えー・・なんか知らない公園があって、そこに」
「・・・ヤダ、それ町の外れの方の小さい公園?」
「え、ああ、そうかも」
「それ前に事件があった所じゃない!危ないわねー!!」
「・・・は」
僕の脳裏に、フラッシュバックのように蘇る彼の顔、そして1ヶ月前のニュース。
アナウンサーによる事件の説明、数秒映し出された被害者の顔写真―・・・
『―・・今日未明、―県―町の公園で地元の学生が遺体で発見され―・・』
「ほら、此処でしょう?新聞残ってたわよ」
母が僕にその日の新聞を見せた。
小さな見出しの小さな記事に、被害者の少年の写真は小さく載っていた。
そう、彼は存在し得ない存在だったのです。
彼は生前、ずっと不登校で常にあの公園で学校をサボっていたそうだ。
あるとき不良に目を付けられ、金を取られ殴られ蹴られ、打ち所が悪くて、死んだ。
その日は雨が降っていたそうだ。
そしてこの公園に、今日、彼の姿はない。
ただ昨日彼が座っていた場所には、手向けの花。
「・・・嘘吐きめ」
いつでもいる。なんて言ってたのに。なんでいないのさ。
彼は、どうして学校に行かなかったのだろう。
人が来ないから、寂しい、とか言っていたのに。
僕と同じで、人ごみが苦手だったのだろうか。
どうして死んで尚も、あそこで学校をサボり続けたのだろう。
その間、何を考えていたのだろう。
僕と話をして、何を思っただろう。
僕は彼に何でも話した。けれど彼は自分のことを殆ど話してはいなかったのだ。
ポツポツと、予報どおりの雨が降り出した。
今日は月曜日、学校に行かなくちゃ。
傘をさして歩き出し、僕は一度だけベンチに振り返った。
その時に傘越しに彼の姿を見たような気がした。