短編集。
始まりはそんな単純な話で、以後二人は教師に目を付けられ生徒からは避けられるようになった。
尤もの原因は一沙の初授業での行動だろうが、灯夜も矛盾した事を言われれば言い返し、目の敵にされている一沙のフォローに入ったりしていたので十分に問題行動はあったのだ。
学校側は体罰を当然のものとしているように見えた。
むしろ、体罰によって生徒が自分の言いなりになる事に酔っている様な。
此所が異常な世界だと、どうして誰も思わないんだ?
「慣れのせいだな。」
「俺らだけが騒いでてもさ、生徒全体がおかしさに気付かなきゃ学校は変わらないよね」
「…生徒に気付いてもらうにはどうするべきだろうな。それはきっと俺らの役目じゃないか?」
一沙は新たに拵えた傷に消毒液をかけながら言った。
染み込むような痛みにも、もう順応してきていた。
「…わかんないよ。いっそ世間に問題視してもらうとか」
「それは…警察ざたの事件でも起こすのか?」
一沙と灯夜の表情に緊張感の色がうかんだ。
「・・・いや、でも駄目。いくらなんでも危な過ぎるよ。焦って変な真似するなよ。」
一沙はあまりにも真直ぐでそういう事をやりかねない。
今迄にもかなり無茶をしていたのだ。
「わかってる。」
灯夜の心配を余所にアッサリと答えた一沙の表情は重かった。
「一沙遅刻するよ?」
ある日の朝、灯夜は学校へ行く支度を済ませると未だベットの上にいる一沙に呼び掛けた。
サボリは規則云々の問題じゃないと灯夜は思っている。
「…ん、先行っててくれ。」
一沙はいつもと違う調子で言った。
あからさまに何か悩んでいる。
灯夜は感づいたが彼の事だからきっと触れられたくないだろうと思い、何も言わずに部屋をでた。
部屋がとても静かになった。
今日はどうしてだろう?辛くて辛くてしょうがない。
一沙はかつての入学前、周りにはいつも仲間がいた。
仲間と馬鹿な事をして、馬鹿みたいに笑い、時に青臭い悩みを抱えたり。
しかし今、自分の周りはどうだ。灯夜がいるだけだ。
目を閉じてあの楽しかった日々を思い出す。只、虚しくなるだけだった。
『―世間に問題視してもらうとか…―』
灯夜の言葉が脳裏を巡った。