短編集。
「…お前もわからん奴だな。おとなしくしてれば良い大学行けるだろうに…」
「俺は別に、良い大学行きたい訳じゃありませんよ。まともな人間でいたいんです。」
いつか一沙と交わした、自分の意志を持ち続けようという約束。
忘れてなんかいない。一沙もきっと覚えていた筈だ。
「どんなに説教しても歯向かって来るのは、まともなのか?」
「人の死を嘲うのはまともですか。」
「!」
ゴツン。と2度目の拳が入った。
「…普通なら、生徒の間での暴力は許されませんよね。どうして教師は許されるんですか。」
「もう喋るな。」
「確かに俺達は何度も歯向かいました。でもそれは反抗したかった訳じゃ―…」
「黙れ!」
教師はとうとう堪え切れずに灯夜を怒鳴りつけ、無茶苦茶に殴り始めた。灯夜は床に倒れたが眼は戦意を保っている。
『後はまかせた。』
俺は任されたんだ。戦えと、一沙の想いを託された。
こんな所でビビっている場合じゃない。
「せっ先生!あまりやり過ぎると…!」
騒ぎを聞き付けた教師が何処からか駆け付け、止めに入った。
灯夜は体を起こし、何度か咳き込んだ。
「やり過ぎなければ問題ないんですか。今迄のは問題にならないんですか。」
「大月!いい加減退学になるぞ!」
「…退学の前に一つ良いですか?」
自分の鼻や口の端から、血が流れるのを感じる。
ここまでやられても平気とは、自分はちょっとやそっとじゃ死なない気がした。