短編集。
そして私はやっと思い出す事が出来た。
あのとき病院で、呆然と爽ちゃんを見ていたあなたの事を。
頬に触れて静かに涙を流した姿、それでも泣き言を言わなかった強さ、
泣き続ける私の背中を擦ってくれた優しさ。
あぁ。
ずっと泣いていたから、あなたの顔もしっかり見ていなかったんだ。
「…俺ね、アイツみたいになりたかった。あんな強いやつになりたかった…。
でもアイツは、強くならなくたっていい。って俺に言ったんだ。」
『―…あんたは強さより優しいのが似合うよ。優しさって強さが必要だけどね。』
「…結局、強くなんかなれなかったけど、俺は、やっぱりアイツみたいになりたいんだ…。」
そんな事ない。
あなたは充分に強く優しい。
あなたは私より彼女のいない現実に目を向けようとしている。
ああ、自分が情けない。
「あの…時々、遊びに来て下さい。…私も爽ちゃんに憧れてた。何でもできて、綺麗で明るくて…」
二人で、爽ちゃんみたいになりたい。
私の事好きになれって言ってるんじゃないよ。
ただ、私はあなたに励まされた。だからこれから恩返ししたい。
一年で一番寒い季節
一年で一番寒い時間
一生で一番寒い気持ちになっていた私たちは、ほんの少し泣いて、笑おうね。と約束した。