短編集。
―押し潰されれば窒息してしまう。
絞められても窒息するだろう。
だから僕は手を伸ばした。―
「…でも、こんな時間に何してたの?」
「塾の帰り…近道だから」
「そっか。大変だねーまだ一年なのに!…大学とか…もう決めてる?」
彼は頷くだけした。
何を話しかけても目線を合わそうとしてくれない。
まさか私は嫌われているんだろうか。
「…(えーと…)私なんかねー全然将来の志望とかなくて、趣味もないし、犬の散歩だけが一日の楽しみでさー」
この公園はいつもの散歩コースだった。
いつも通りに散歩をしていたら、何故かリードの繋ぎ目が取れてしまい、何故か犬は逃げていってしまった。
賢い犬だったし、長い付き合いだったので私の言う事はよく聞いた。
だからまさか逃げ出すとは思わなかったのだ。
犬は縄張りの習性があるから、もしかしたら見つかるんじゃないかと思って必ず毎日此処は探していた。
「…でもなかなかいなくて…もう2週間経っちゃった」
私は沈黙のまま探すのがどうしても気まずくて、なんでもいいから話をしようと必死だった。
とはいえほぼ私が一人喋りするばかりで、彼は相槌くらいしかしてくれない。
「でも最近ほら、この辺動物虐待とか…心配でねー」
「諦めれば…?」
こちらを向く事もせずに彼は冷たく言った。
―たかが、こんなもの。そう言ったら間違いなのは知ってる。
でも、しょうがないんだもの。
甘くて馬鹿な人間だから。―
「…もし見つかったとしても…また散歩できるか分かんないよ?」
彼の言わんとする事はよく分かる。
2週間は長すぎで、此処が危ないのもよく分かっているのだ。
でも、私は、
「…心配してくれるんだね。ありがとう。でも…大事な家族を放っておく様な薄情はできないよ」
―…やめて。やめろ。
そんな目はやめろ。
辛くなってしまう。―