短編集。



「…悪い」

彼は謝って下を向いた。

「え、そんな、謝らなくても!」

「こっち」


その言葉で嫌な予感はすぐに感じた。
公園の茂みに彼はどんどん入っていって、ますます何も言わなくなっていた。
そして彼が立ち止まって、下に目線を落とした事で予感は確信に変わったのだ。

「…こんなだから、見ない方がいいと思って…」

「…そっか、そっかぁー…」

この子の時間はいつ止まったのだろう。
随分経っているように思われた。
中身や骨が外側に出て、細かい毛が散乱している。
血が赤黒く固まって、草や土にこびりついて異臭を放っていた。
私の犬は熱をなくして横たえていたのだ。

「見付けてくれて、ありがと…」

―気付きなよ。違うって、気付きなよ。
僕からする臭いが、これと同じって、分かるでしょ―

空が明るみを帯びはじめている。
きっともうすぐ日が昇るのだろう。

―ああ。僕はもう太陽なんか見たくない。
日が昇って朝が来れば、変わらぬ毎日が繰り返されるばかりで
その毎日というのは、あまりにも酷で重たくて
また、手を伸ばしているだろう―


お墓を作って花を添えて、犬が土の中に消えたとき、私はふと考えた。
動物は死の間際になると姿を眩ます。
それがどういう意味かなんて分からないんだけど、
あの時、逃げ出す直前に一度こっちを振り返った。

『ありがとう』の意味だなんて、思い上がっていいのかな。


―そんな姿見せないで。
自分が哀れになってしまう!
哀れな自分と圧死寸前な自分は同一人物で、やっぱり手を伸ばしてるから、

また、どうぶつをつかんでしまうんだ。―


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