あ、と僕は漏らした。風は黙っている。


青々とした木々達が、雨の多さに流され下にあった家を飲み込んだ。

「風様。確かに木は恐ろしい、多くの命を奪います。」


「けれど彼らのために助かる命もある。彼らにはだからこそ畏れをもって接しなければならない。」

「…それに畏れるのは、木だけではない。」


ご覧、と示された先には、今にも溢れそうな濁流がある。


あ、と僕は漏らした。風は黙っている。


濁流が堤防を切り裂き、我先にと人家を食していく。


「風様。確かに水は恐ろしい、多くの命を奪います。
僕は雫。僕も水です。僕も命を奪うのでしょうか。」


「そうかもしれない。けれどお前達のために、助かる命もある。
だからこそ畏れをもって接しなければならない。」



すべてのものは、畏れをもって接する必要がある。

風はそう、言って僕を運んでいく。

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