最後に初めまして。
険しい古都の表情は初めて見るものだった。


『そんな事、誰も言ってない。思い出は思う人によって素敵な物だったり悲しい物だったりするはずよ。登はお母さんを想う気持ちに嘘を吐いているだけでしょ?』

「嘘なんか吐いてない。あんなヤツなんて…。」

『ならどうして…。素敵な思い出だってあるはずなのに…。甘えれなかった自分に後悔しているだけなのよ。』

「ち、違う…そんなんじゃない…。俺は…。」


古都は立ち上がり座っている俺を優しく抱き締めてくれた。


『泣きたい時には泣いたらいいの…。一人で泣くのが嫌なら私が一緒に泣いてあげる。登は一人で我慢して来たんでしょ。もう泣いてもいいのよ。』


古都は泣いていた。
俺も古都の胸の中で年甲斐もなく大声で泣いていた。

まるで温かく幼い頃に忘れていた母親の温もりのように心地良い物だった。

俺もこんな風に愛されていたんだ。
間違いなく母親に愛されていたんだ。

俺は母親にずっと聞きたかったんだ。


「俺を…、俺を…愛している?」

『ええ…とっても愛しているわ。』


俺はその一言だけを待っていたんだ。

亡くなって聞けなかった事に後悔していたんだ。


「あ…りが…と。」


その言葉を聞くと古都は優しく、とても優しくキスをしてくれた。

そして気が付くと俺はベッドの中で古都に優しく包まれていた。
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