最後に初めまして。
週末の甘い時間が過ぎると、大型連休前の慌ただしい一週間が始まった。

白衣を着た偉そうなオッさんや彼氏もいない様な看護士に文句を言われながらも、頭を下げ回る日々。

何故この仕事を選んだのだろうと、今でも不思議に思う時がある。

これでも小さい時は人並みに夢に溢れてた頃もあった。

野球選手や芸能人に憧れたり、一番最初は…。

動物のお医者さん。

何故だったかは覚えてないが、そんな事は今さらどうでも良い事だ。


俺の過去は断片的な思い出が多い。

思い出したくもないと言う気持ちが、そうさせてるのかもしれないが…。

どうせなら全て忘れさせてくれれば良いのにと思う。

人間と言うのは不思議な構造だ。


そしてまた忘れられない想いが始まろうとしていた。


営業から疲れた身体を引きずって会社に戻る。


『高瀬さん?』

「あっ、はい?」

『外回りの時に、倉木さんって女性の方から電話ありましたよ。』

「そうですか。分かりました。ありがとございます。」


会社の同僚から言われた一言がやけに引っ掛かった。

―― 倉木 ?――

―― だれ ?――


仕事関係で聞いた事もない名前だし、俺の知ってる女で会社に連絡するヤツなんて、心当たりはないが…。


これが、これから起こる淡くて切ない思い出の始まりだった。
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