最後に初めまして。
俺は週末までの日々が待遠しく思えた。

その感情は好奇心から来る物だったのか、それとも…。

ただ単に、倉木と言う名前が同じだと言うことにいつしか初恋の思いをタブらせていたのかも知れない。

そうでなければこの後の俺の不可解な行動に説明がつかないからだ。


週末、仕事を終えた俺達は足早に店に向った。

店に入るとすぐに周りを見渡し始めた。


「ヒロ…どこだ?」

『えっと…―― あれ?いないや。』


まるで肩透かしを食らった気分だった。


「そっか。悪いな。」

『そう慌てるなって。そのうち来るだろう?それまで楽しもうぜ。』


ヒロはそう言ったが、俺は楽しむ気分でもなかった。


「少し飲んでるな。」

『分かったよ。俺は少し回って来る。』


そう言うヒロと離れてカウンターをいつも通り陣取った。


「マスター、バーボンロックで頼む。」


ポケットから煙草を取り出し火を点け、後を振返りながらもう一度店内を見渡した。


『どなたかお探しですか?』


グラスを置きながらマスターが口を開いた。


「いや、何でもない。」


冷やかしだったのかもしれない…。

差し出されたグラスを見つめ、幼い恋心を楽しむかのように思い出し、ゆっくり飲みながら待つ事を決めた。
< 15 / 125 >

この作品をシェア

pagetop