最後に初めまして。
店に入ってどれだけの人の流れを見て来ただろう。

隣りいるヒロも時間を持て余している。


「暇なら声でもかけに行ったらどうだ?」


重い空気を解き放つように、俺が口を開いた。


『ん…、いまいち気分が乗らないかな。』


俺に気を使っているのか珍しい事を言う。


「なら、たまには俺が行くか…――。」


重い腰を上げようとした時、入口のドアが勢い良く開いた。

――ギィーッ、バタン!!――

次の瞬間ヒロは俺の肩に手を置き、静かに揺すって見せた。


『お、おい…。』


ヒロに教えられるまでもなく、入って来た子が待ち人だとすぐに分かった。


『ハァハァ…。ご、ごめんなさい。なかなか抜けれなくて…。』


息を切らしながら入って来た彼女は俺達の前で止まった。


『いらっしゃいませ。お飲み物は何に致しますか?』


マスターが、呆然とする俺達の間から声をかけた。


『す、すみません。あの…お水を下さい。』

『分かりました。』


俺達の目の前で喉の渇きを水で潤すと、彼女は俺を見つめた。


『高瀬 登……さん?』


我に返った俺は、小さくうなずいた。


「――… ああ。」


この場に似つかわない白いワンピースが似合う彼女は、つぶらなブラウン色の瞳で俺を真直ぐ見つめていた。
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