最後に初めまして。
そうかも知れないな。
嫌な思い出は忘れられないが、素敵な思い出は忘れて行く。

初恋の彼女の顔さえもぼんやりにしか思い出せない。


「そうだな…俺が覚えていれば彼女は俺の中で生きていれるんだよな。」

『そうですよ。私は、そう思ってるから。』

「分かった。古都の言う様に思い出して、行く事にするわ。」

『はい。ありがとう。』

「古都もあるんだろ?初恋の話?」

『私?私も…遠くから眺めていただけ。』

「気持ちを伝えるとかしなかったの?」

『少ししか話した事、なかったから…。』

「そっか。憧れの人だったんだ。」

『遠くから眺めて話を聞いて…そして想像してたんです。』

「想像?…何を?」

『優しい人なのかな?こんな人なんだよねって、いろいろ想像するの。』

「それが初恋?」

『はい。でも好きになったのは別の事があったからなんですけどね。』

「ふぅん…。で、別のことってのは、何?」

『えっ?それは、あの…秘密です。』

「はぁ?肝心なとこは秘密かよ。」

『えへっ…。』

彼女は少し照れくさそうに笑みをこぼすと立ち上がり、両手を広げゆっくりその場で回り出した。


『夜の空の下ってこんなにも気持ちいいものだって知らなかった。』


その光景がなんとなく温かい空気を俺に運んでくれるような、そんな気分を味わっていた。
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