最後に初めまして。
あれはまだ俺が4歳の時、寝る前母親に玩具か何かをねだった。

それが何だったかなんて覚えてないし、どうせろくな物じゃなかったのだろう。

その次の日の朝、母親は俺の前から居なくなっていた。

幼かった俺は自分のせいだと思い込み、物を欲しがると言う事を二度としなくなった。

もっともそんな事が出来るほど、母親のいない生活は甘いものじゃなかったのだが。

それは10歳の子供には壮絶と言うには、早過ぎる日々だった。


あの男の機嫌が悪いと殴られ、食事を食べさせて貰えないなんて事は当たり前で、時には裸で外に出され、寝る事さえ許されなかった事もあった。

ある時には熱湯を身体にかけられ、胸から腹に大きな火傷を負った事もある。

今でもうっすらと残るその傷跡を見る度に、母親の裏切りに苛立ちを覚える。


忌わしい過去からの贈り物は、無数の傷跡に失望、憎悪、苛立ちぐらいのものだった。


『チッ。いつになったら忘れる事が出来るんだ?一生付きまとう気なのか…――。』


俺は大きなため息と一緒に言葉を吐いた。

そしてこの頃から俺は人を愛する事に、大きな戸惑いを持っていた。

もし裏切られたら立ち直れるだろうか?

また俺の前から居なくならないだろうか?


『もう、こんな時間なのか...。』


テーブルに置いてある鍵を取り、冷たい部屋を後にした。
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