最後に初めまして。
こんな事で本当に大丈夫なのかは分からなかったが俺は何もせずにはいられなかった。


「俺も上を脱ぐ。古都も上を脱いで温め合うんだ。これしかないだろ?」

『でも…私…。』

「恥ずかしがってる場合じゃないだろ?古都はこのまま死んでもいいのか?俺は嫌だな。まだ古都に伝えてない事が山程あるんだから…。」

『なら目を…目を、閉じてて下さい。』


俺は古都に言われるまま目を閉じていた。
冷たくて柔らかい感触が胸から伝わって来た。


『温かい…登はいつも温かいね。』

「古都の体が冷た過ぎるだけだろ?」

『違うの…登はいつも私を温かく包んでくれる。遊園地でも、昨日の夜でも…なのに私は…。』

「古都…ごめんな。俺、間違っていたのかもしれない。」

『登?この大きな傷跡はどうしたの?』

「これか……。」


百合さんの言葉が頭をかすめた。

何もかも全てを伝えなさいか…。


「これはな、俺が子供の頃に父親が…――。」


俺は古都に何一つ隠さずに全てを話していた。

虐待の事…――。

母親の事…――。

そしてその過去が俺を苦しめ人を愛す事が怖かった事を何もかも話した。

古都は何も言わずに黙って聞いていた。
ただ、時折大粒の涙が俺の胸を流れていた。

俺はこの瞬間から鎖で繋がれていた重い心が軽くなった様に思えた。

こんなにも簡単な事だったのか?

いや…相手が古都だったからに違いない。
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