さよならとその向こう側



『…ねぇ、実。』



バスルームから彩夏の声がした。



決定的だ。

確実に綾さんに聞こえただろう。


取り敢えず、彩夏に電話中だと分かるジェスチャーをして、綾さんとのやり取りを聞かれない様にベランダに出た。



この時点で覚悟は決まった。


綾さんに別れを告げるつもりだが、それを聞いたら彩夏は止めに入るかもしれない。

俺が仕事を続けられなくなると心配するだろう。


だから聞こえない様に……そう考えたが、振り返って部屋を見ると彩夏の姿が無い。


てっきり、心配そうな顔で俺を見ているかと思ったのに。


一人で不安を抱えて悩んでる?

震えてる?

もしかしたら、泣いてる?


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