さよならとその向こう側
「神田君、珍しく暇そうだね?」



笑いながら話し掛けて来たのは、佐和田教授だった。


「…あ…はい。もう片付いたので、今日は手持ちぶさたでして。」


まさに今、教授に話す事を考えていた為、突然話し掛けられて少し動揺した。



「そうか。……で、今日は綾と過ごすのかね?」


「…え?」


「いや、よければ我が家で夕食でもどうかね?」





綾さんに何も聞かされていないであろう教授が、あまりに嬉しそうに誘ってくるから、胸が痛んだ。


だが、今言わなければタイミングを失ってしまう。


――そう決意した。



「教授、実は大事なお話が有ります。」



そう告げると、佐和田教授の表情が曇った。


「大事な…というのは……綾の事か?」


「はい。」



「そうか……では、応接室で話そう。」


教授は、誰にも聞かれたく無い話だと察しがついたのだろう。

私は慌ててプレゼントを鞄にしまうと、隣の応接室に移動した。



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