さよならとその向こう側
教授はため息をついてから、また窓の外を見た。
「そうか、君の気持はよくわかった。」
「申し訳ございません。」
「・・・もう、いい。人の気持ちは、そんなに簡単には変えられないものだしな・・・。」
「・・・・・・。」
「私も、君と似た様な境遇になって、今の妻と結婚したんだ。」
「・・・教授?」
「同じ様にな、当時付き合っている女性がいたが、大学で研究を続ける為には、大学からの資金だけでは足りなくてな。今の妻は佐和田家の令嬢だった。その佐和田家の一人娘の妻が私に好意を持ってくれて・・・迷ったが、私は研究を続ける為に当時の彼女を裏切って妻と結婚したのだ。婿養子に入って、愛していた彼女を捨てて・・・今の地位と名誉を手に入れた。
だが、自分で裏切っておきながら、今でも時々、その女性の事を思い出す。
皮肉なモノだな。綾の為にと思ってした事が、危うく、妻と同じ様な境遇に綾を追い込んでしまう所だった。」
突然の告白に、なんと言葉をかけたらいいのか分からなかった。
それに、その事を今も後悔している様な話ぶりが、正直以外だった。
「すまなかった、神田君。
私は、大事な一人娘が・・・綾が君を気に入ってくれた事が嬉しかったんだ。私自身が認めている君となら、結婚してもきっと上手くいくはずだと、綾の気持ちしか考えていなかった。」
「そんな!!謝らないで下さい。私こそ”前向きに考えます”等と教授に申し上げておきながら・・・。」
「いや、そう言わせたのは私だ。神田君は悪くはないさ。
しかし、綾にはもう伝えてあるのか?最近、綾の様子がおかしくてな、君と喧嘩でもしたのかと余り深くは考えて無かったのだが。」
「・・・はい。」