さよならとその向こう側
「じゃあ、そろそろ帰りましょうか?」


食後のコーヒーを飲み終えた時、そう言われた。


時計を見ると午後8時。


まだまだ神田さんと一緒にいたかったけど、これ以上引き留める理由なんて思い浮かばなかった。




「ご馳走様でした。…今日は本当に有り難うございました。」


神田さんにお礼を告げ、名残惜しいけど駅に向かって歩こうとした。


「綾さん?タクシーでよければ、ご自宅まで送りますよ?」



「そんな……気を使わないで下さい。電車で帰りますから。…それに…」


「それに?」


「神田さんの彼女にも悪いじゃないですか。」



彼が私に気を使って『送って行く』と言っているのだと分かった。

勿論、申し訳なくて、送って貰うつもりはなかった。

だから、彼に断りやすい理由を見つける為……。


ううん。

彼女がいるかどうか、私はすごく知りたかったから。

だから、こんな台詞が出てきたんだ。



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