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「きみは、飛んでいる鳥を地上から見るとき、鳥が空を飛んでいる、と思うだろう?

でもね、飛んでいる鳥も、ここからみると、ほら。ぼくらと同じ高さを飛んでいる。

ということは、ここは空なんだよ。

そう考えた時に、こうやって、手を伸ばしてごらん。手は、空をつかんでいるんだ。

この、大きな大きな空の一片を、いま、きみはつかんでいる。

目を閉じて深呼吸をしてみて。大空を吸いこんでいる気分はどうかな?

…少し、気分が良くなっただろう。」

目をあけると、目の前にあったくすみは少しだけ薄くなっていた。

白い作業服の彼は、ペンキの缶と刷毛を手に持って、くすみの方向を塗り始めた。

「あ…本当に空なんだ…」

見る見るうちに、遠くにあるように思っていたくすみは、目の前で青いペンキの下に消えていった。

「よし、消えた。でも、すぐにまた出るだろうね。そのときにまた来るよ。」

「え…はい。」

屋根から飛び降りる彼を見届けた後、振り向いて、さっきまでくすんでいた遠くの空をまじまじと見つめた。

「あ!!一個言い忘れた!」

驚いて屋根の下を見下ろすと、彼はわざとらしく営業用の笑顔を作った。

「ペンキは塗りたて!触らないでね!それから、もう少しだけ空の中で休んでいるといいや。じゃあ。」

予鈴が鳴った。

でも、もう少し休んでいこう。

あの輩の中にはまだ戻れない。

空の中で、休んでから帰ろう。

屋根にごろりと横になった。

見えるのは、真っ青な空に真っ白な雲。

目を閉じて、大きく空を吸いこんだ。

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