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室外の険しい寒さなど想像もつかないような暖かい部屋の中で、二人の男が向かい合っている。
「……ガルエル。なぜシルヴァを選んだ」
冷ややかな怒りのこもった声で、豪華な彫刻の施された机の前に立ち尽くした男が言った。
ガルエルと呼ばれた、白髪で髪がグレーになっているふっくらした男は、先程の神殿での神の代言で乾いた口を水で潤し、グラスを置いてから答えた。
「ロゼルタ……わが息子よ。神のお告げは絶対なのだよ」
そう言う哀しげな声とは裏腹に、ガルエルの表情は有無を言わせぬ硬いものだった。
ロゼルタが見つめる、机に座るガルエルの後部の窓からは満月に照らされた丘が見える……そこには、長い銀髪の少女が小さくうずくまっていた。
「アイツほど、エマを憎んでいるイヴはいないっ!」
ロゼルタが声を荒げる。
「だから選ばれたのだ。憎しみは、復讐心を肥やす何よりものエサとなる」
「そんな理由でっ……。バカげてるっ!」
「それだけではない」
高ぶる息子を抑えつけるかのように、一層低い声でガルエルが唸った。
「……お前にも分かっている事であろうが……シルヴァには、一部の感情が欠落しておる」
「……それがどうした」
いきなりの言葉ではあったものの、幼い頃からシルヴァと関わってきたロゼルタには、すぐに理解できた。
「歴史を、繰り返してはならぬ。彼女でなくては……いかんのだよ」
「……ッ。クソヤロー……」
今度こそ、表情まで哀しみに満ちた自らの父を見て、言い返す言葉が見当たらなかったロゼルタは、小さく悪態を付いて総長室をあとにした。
〜Act.1 end〜