幼なじみ〜first love〜
「ふぁぁぁ~」




みんなと別れ、俺はあくびをしながらぼんやりと病院の廊下を歩いていた。




「…静かやな」




俺が病院からいなくなったこと、騒ぎにはならなかったようだ。




「……遊也」




後ろから声がして、振り返った。




「…何ですか?桜井センセー」




ここの病院で勤務している医師、一応、血の繋がった俺の父親。




けど、父親なんて思わない




俺にもう家族はいない




「どこに行ってたんだ?」




「………」




俺は無視して、病室までの廊下を歩いてく。




「…私がうまく言わなかったら、今頃病院は、騒ぎだったはずだ」




「…それは…ありがとーございましたっ」




恩着せがましいやっちゃ




ホンマに…




「パパぁ…」




後ろから小さな男の子の声がした。




「隆太郎…こんな朝早くにどうしたんだ?」




「…トイレに起きたら眠れなくて、パパ探してたんだっ」




5才ぐらいの男の子は、桜井先生の膝にしがみついていた。




「病室から勝手に出たら駄目だと言っているだろう?」




「…ごめんなさい」




「パパとベッドに戻ろうな?」




「うん……パパぁ…あのお兄ちゃん…だれぇ?」




その子が俺を指差し、桜井先生は俺をちらっと見て言った。




「…患者さんだよ。行こう、隆太郎」




「え…うん。おにいちゃんバイバーイ!」




その子は振り返りながら、俺に笑顔で手を振っていた。




俺は、もちろん笑顔で手を振り返した。




父親と、おそらく父親と再婚相手との間にできた子供だろう…その子の二人の背中を見つめていた。




二人の姿が見えなくなったその瞬間、笑っていたはずの俺が…




頬には一筋の涙が伝った……。
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