―愛彩―
和人様には、商才がおありのようでございました。

小さな卸問屋に過ぎなかった「長谷川」は、年々規模を拡大していったのです。

『私の代で終わり』

かつて、そうおっしゃられていた長谷川さんも、和人様に経営のすべてを委ねられるようになりました。

「和人くんには、篠宮の旦那様の血が流れているんだな・・・。」

ある日、長谷川さんはポツリとおっしゃられました。

「和人くんの手で、これからも大きくなっていくんだろうな。」

この頃の長谷川さんは、度々、体の不調を訴えるようになり、床に伏せる日も多くなっておりました。

長谷川さんは、私におっしゃいました。

「みちるさんは、ここに来て何年になったかね?」

「8年になります。」

「8年か・・・。」

「はい。」

「もしも・・・。他に行きたいところがあるなら、遠慮する事はないのだよ。」

それは長谷川さんの優しさから出た言葉でした。

長谷川さんは、私の行く末を気にかけて下さっていたのです。



――この時の私は、夢にも思っておりませんでした。


長谷川さんの最期の時が近づいているなどとは・・・。
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