―愛彩―

初めての日。

―――遠い・・・。
古い話でございます。


8歳になった私は、地元の名士であった篠宮様のお屋敷へ、お手伝いとして上がる事になりました。

亡き母も幼い頃にご奉公させて頂いていたという、篠宮家。

私は母と同じ道を歩むことになったのです。

お屋敷は外で眺めていた以上に広く、初日の私はまるで「おのぼりさん」のように、回りをキョロキョロ見回しておりました。

「こちらが、坊ちゃん。和人(かずと)様でいらっしゃいます。」

執事の方に促され、私は和人様にご挨拶を申し上げました。

「今日からお世話になる事になりました。高沢みちると申します。よろしくお願い致します。」

私は深々と頭を下げ、とにかく粗相のないようにと、それだけを考えておりました。

坊ちゃんはそんな私に笑顔で答えて下さいました。

「よろしくね。みちるさん。」

坊ちゃん・・・和人様は私よりも2歳年下。

ご挨拶も丁寧で、そばにはお世話係の家庭教師の方がついておいででした。

広いお庭のサンテラス。
春の暖かい陽射しがこぼれる中、私はこの時に初めて、和人様と言葉を交わしたのです。
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