―愛彩―
私はつくづく、わがままな老いぼれだ。

口では君に私の事は構うなと言っておきながら、その実、君が去ってしまったらと考えると寂しさが私の心を支配していた。

私は実に器の小さい人間だった。

そんな私の晩年に、一緒の時を過ごしてくれた君にせめて何かを残してやりたい。

私はそう考えるようになっていた。

それについては遺言書に書いた通りだ。

私の最後のわがままだと思って、是非受けてもらいたい。

君の判断ならば売ってもらっても、何をしてもらっても私は構わない。

ただ、君の身になるように、好きなようにして欲しい。

君の8年間の、私に対する奉仕へのお礼でもあるのだから。

みちるさん。

君は一人ではない。

君には溢れんばかりの、けれども秘められた優しさがある。

これからは自分の為に生きて欲しい。

もっと欲を持って。

それは決して悪い事ではないのだから。

私が君に気付かされたように、君にもその事に気付いて欲しい。



長くなってしまったが私の願いはひとつだ。

みちるさん。

幸福になって欲しい。

最期まで世話になった。
本当にありがとう。

長谷川忠臣
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