―愛彩―
それから数日後。


私は長谷川さんがこの世に残された『物』を受け継ぐ事を決めました。

長谷川さんと共に暮らした家をこれからは私が守っていくと。

和人様も名実ともに『長谷川』の社長となり、会社を守っていかれる事になりました。

一見、今までと同じことを続けていくに過ぎないこと。

けれど私は覚悟を決めたのです。

両親も家もなく篠宮家を出た私は言わば、『根なし草』。
新たに根付く場所を探す事も考えられずに生きていたのです。

『和人様の傍にいたい。』

その想いのみに縛られて。

もしかしたら長谷川さんは、私のそんな気持ちに気付いていたのかもしれません。

長谷川さんはそんな私に

『もっと欲を持って生きて欲しい』

そう書き残されていったのです。

『君はひとりではない』

長谷川さんの遺言は、私の心臓をえぐり出すようでもありました。

「長谷川さん。私は欲深い人間なんです・・・。」

遺影を前にして私はひとり、呟いていました。

長谷川さんの家に残ることは、今後も和人様との繋がりを保てるということ。

その事に喜びを感じている自分がいる事も、事実だったのです。
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