―愛彩―
「みちるさんは、私のことを大風呂敷で見すぎなんだよ。」

と笑っておられました。
私は真剣に申し上げました。

「本当にもったいないですよ。」

「何が?」

「和人さんの才能を受け継いだお子様が、お生まれになるかもしれないのに。」

それは私の本心でした。

「才能か・・・。」

和人様は空を見つめるように呟きました。

「あるなら、あやかりたいものだね。」

ご自分の頭を指差して、茶化されておいででした。


―――和人様が結婚なさらないのは、心の中にまだ由里様がいらっしゃるからなのでは・・・。

私は時折、感じていました。

由里様が亡くなられて、20年以上の年月が流れていました。

それだけの月日を持ってしても、和人様の心は変わらないのか・・・。

不思議と悔しさはありませんでした。

『貴女にも、一生を共にする男性があらわれる』

由里様と過ごした日々の記憶は多少色褪せようとも、その言葉とその時の由里様のお顔だけは鮮明に深く、私の胸に刻まれていたのです。
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