―愛彩―
「子供の頃に、養女として須崎家に出されたんです。」

「養女？」

「はい。父が亡くなり、いろいろありまして。」

「お父さんも・・・。」

由里様のご主人も亡くなられていた事を、私はその時、知りました。

それにしても、なぜ彼女は私を訪ねてきたのか。
私はその疑問を問うてみたのです。

「なぜ、私に会いに？」

「今さらなんですけど、母の事を知りたくて。」

彼女は真摯な瞳で私に言ったのです。

――聞けば、彼女の実家は父親の死後、売りに出されて今は無く、生前の由里様のゆかりの品も無くなってしまったのだということでした。

須崎家に養女に出た際、たまたま持参してきた一枚の写真が、唯一の形見の品であること。

母親が結婚する前に、実家で撮られた写真のようだ、という事しか分からなかったこと。

篠宮邸の住所を調べてはみたものの、そこには既に別の建物があり、何も得る事ができなかったこと。

「雑誌で偶然、見たんです。『長谷川』の社長さんのお名前が『篠宮和人』さんだと。」

母親には『和人』という名前の弟がいることを知っていた彼女は、確かめるべく、会社を訪ねて来られたのです。
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