―愛彩―
社長業を引退されても、和人様は活動的でございました。

趣味や慈善事業に、これまで以上に精力的になっておられました。

「少しはゆっくりできると思いましたのに。」

私は和人様に、それとなく釘を刺しました。

「みちるさんも、たまには一緒に行くか?」

和人様はおっしゃいましたが、

「私はいろいろとありますので」

と、はぐらかしました。

「いいじゃないか、たまには。みちるさんの行きたい所はどこ?」

和人様の柔かな笑顔が、私にはもったいなく感じられました。

私が口ごもっていると、

「じゃあ、優花の所にでも行こうか。」

和人様に押し切られ、私は時々、連れ出されるようになりました。



以前の和人様には、全くなかったことでした。

会社を離れたことで、心の余裕が出てこられたのか・・・。

私は和人様が、健康な毎日を過ごされる事を、願って暮らしておりました。
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