―愛彩―
私が篠宮様の屋敷へ上がるようになってから3年ほどが経ったある日。

由里様のご婚約が決まったと、旦那様からお話がありました。


「まだ16なのにねぇ。」

「早くはないわよ。良家の子女とあれば、当然よぉ。」

使用人達の間でも、その噂で持ちきりでした。

ご婚約相手は家柄も勿論の事、大きく事業を興している資産家でもありました。

篠宮家にとってもまさに“良縁”だったのでございます。


――その時の私は、和人様の事が気がかりでした。

由里様のご婚約をお聞きになった時の和人様のお顔が、とても淋しげに映ったのでございます。

「和人様。この度はおめでとうございます。」

私は、自分の胸の内とは裏腹に、努めてお祝いの言葉をかけました。

「ありがとう。」

和人様は笑顔を見せて下さいました。
それは誰に対しても。
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