三澤斗春と優しい殺意。
「ははは、実に騒がしい客人じゃな」
部屋の奥から、おばあさんが現れた。
「薫さん。シチューも作ってあっただろう?少しぐらい出してやってもいいじゃないか」
「御祖母様……でも、あれは」
「まだ、作りかけだったか?さっき、できたと言っていなかったか?ははぁ、さては出し惜しみか。よいではないか、空腹は最高のスパイスだ。おいしく食べる人に食べられる料理は本望じゃろう」
「はい……それじゃあ、取ってきます」
薫は部屋から、いそいそと退出した。
「シチュー!シチュー!」
スプーンとフォークを持って騒ぐ三澤。
「はしゃがないでください!恥ずかしい」
「ははは、年甲斐もなく子供じゃな」
「それがウリです」
「真顔で何言っちゃってんですか!」
妙なポーズを決める三澤に、今日何度目かになる呆れを示した。
「何をぅ、スキあり!」
「スキなし!」
再びコロッケ争奪戦が始まる。
「ははは、薫さんの料理は美味しいからな」
「私なんて、まだまだ御祖母様には敵いませんよ……」
ちょうど薫がシチューの皿を持ってきた。