大切な時間
 普段と様子の違う太一に一気に不安が押し寄せる。横を向いてしゃがみ込む太一は心臓の辺りを押さえていた。

「太一!?大丈夫?」
 太一は小さい頃心臓が悪かった。準備運動をしっかりすれば運動はできたけど、ショックな出来事があると息ができなくなるのだ。私は一度だけ、太一が胸を押さえて苦しそうに崩れ落ちるところを見た事がある。

 太一は大分落ち着いてきていたところだったらしく、すぐに話しだした。
「…晃太は?」
 太一は悲しそうな目をしていた。
「河原で待ってるよ。立てる?」
 と言って太一を立たせようと促した途端、

 太一が抱きついてきた。私はその反動で膝を落とす。

「たい…ち?」

「行かないでよ。俺だけのものでいてよ…」

 ほとんど消え入りそうな声で太一がそうつぶやいた。それから太一は話さなくなった。ただただ手の力を弱めず固まっていた。

 どのくらい経っただろうか、太一はそっと力を緩めて私の肩に手を置くとうつむいたまま
「ごめん…」
 と小さく謝ってきた。
「俺小さいときから変わってないよな。アキの事頼ってばっかりで。大人になったつもりだったけど、やっぱりまだアキがいないとだめだ」
 太一の声はさっきよりはっきりとしていた。

「いいよ、晃太のとこ行って」
 と言って太一は手を離した。
 変わったと思っていた太一はまったく変わっていなかった。昔のまま甘えん坊でやきもち妬きだった。それがなんだかすごく嬉しい。

「花火始まっちゃうよ。行こうっ」
 私は太一の腕を取って歩きだした。

 河原の近くには晃太が立っていて、そわそわしていた。
「晃太!」
 と私が名前を呼ぶと、晃太は笑って手を振った。

 ドーン

「あ、始まったね」
 花火は私たちを優しく照らした。
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