大切な時間
《太一》
 まずい…苦しい…。
 俺は右手で左胸を掴むように押さえて発作が治まるのを待った。

 俺は三歳の頃から心臓に問題があった。準備運動をすれば運動もできるくらいの軽いものだったから、ごく親しい人しか知らなかったし本人ですらあまり気に留めていなかった。たまにショックな事が起きると軽い発作を起こす。丁度今のように。

 人のいない木陰でしゃがみこみ、だんだん痛みも和らいで来たとき、
「太一…?」
 先ほど晃太と二人でいたはずのアキが俺のそばにいたのだ。

「太一!?大丈夫?」
「晃太は?」
 と聞くと、アキはやさしい声で
「河原で待ってるよ。立てる?」
 と言って俺を立たせようとした。

 嫌だ。行きたくない。
 俺はそのままアキに抱きついた。

「行かないでよ。俺だけのものでいてよ…」
 思った言葉がそのまま口に出た。何を馬鹿な事をしているんだ。俺は子供か。そうは思うのに体は行動をやめない。

 アキは何か聞こうとしたけどそのままでいてくれた。
 このままずっと時が止まればいいのに…。

 だけど時は止まらなかった。俺は下を向いてアキに謝った。
 俺、全然変わっていない。またアキを困らせている。俺が守らなきゃって決心したのに。

「いいよ、晃太のとこ行って」

 するとアキは少し笑って俺の手を引っ張ってこう言った。
「花火始まっちゃうよ。行こうっ」
 俺はアキの笑顔に戸惑いながらそのまま河原の方へと連れて行かれた。そして途中で心配そうな顔をしている晃太を見つけた。

「晃太!」
 とアキが名前を呼ぶと晃太は笑っていた。二人で何を話していたんだろうと気になって仕方がない。だけど、俺は一生懸命気にしないようにした。

 ドーン

 俺は、この花火を一緒に見ている彼女をどう見ているんだろうか。
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